隠密薬剤師書置

日陰に咲く隠密薬剤師の留守居録

新型コロナ感染症クラスター対応をやってみた。(※現在進行形)

Twitterでわたくしの投稿をご覧の方の中には

「近頃あいつ検温結果しか呟かないよなあ」

とお気付きの方もいらっしゃるのではと思いますが、とうとう弊社弊支店にもアレがやってまいりました。

『新型コロナ感染症クラスター』


わたくし自身は感染もせず濃厚接触者にもならず、いわゆる「グリーンゾーン」でクラスター対応事務局的な役割(各種数字の集計と状況把握、行政への報告のための資料まとめ)をしています。
1日の半分は病院薬剤部での仕事もあるので、レッドゾーンで直接患者対応などといった感染リスクの高いことはしないで欲しいということのようですが。

感染の現場に常駐するような過酷さはないものの、それでも曜日関係なく連日出勤で、家に帰ったら遅い晩御飯作って(遅過ぎて相方がマックとか551蓬莱の豚まんとか買っといてくれる日もあった)洗濯して寝るだけで、Twitterやってる場合じゃないよねっていう。

まだクラスター対応は現在進行形ですが、そろそろ次のフェーズに入ってきた感があるので、忘れないうちに自分が見たり経験したり感じたりしたことを簡単にまとめておこうと思います。

※あくまでも「個人の感想」として、経緯や詳細な数値についてはここでは言及しません。


【1】現実は各種マニュアルを軽く越えてくる

感染患者さんは、お行儀良くひとりずつ発生するとは限りません。
リアルの高齢者は、大人しく職員に従う人ばかりではありません。
何なら、知恵も経験もあり認知機能がしっかりしていても、イヤイヤ期の2歳児並みに「嫌なもんは嫌。そんな気分じゃない」とか言い出す、しかもそこへきて体は大人。

病院の感染対策と同じようにいかないのは、設計設備や人員配置以外にも「ケア対象が持つ特性」もあるんじゃないかという気がします。
最近も「2歳児にマスクを付けさせるかどうか」みたいな話ありましたよね。
全員がこちらの指示が通る人ばかりではない。

それを、ハナから「高齢者施設は感染症の知識がない、レベルが低い」みたいに上からモノ言う人が時々いて、正直ちょっとイラッとしてます。


【2】職員が一斉に罹患したら、詰む

世間では「濃厚接触者の自宅待機期間を短くして社会活動を止めないように」という動きが盛んになりましたが

「発症したらそもそも体がツラくて働けない」

というのを皆様お忘れではなかろうか。

濃厚接触者の自宅待機期間を短くしても、実際に罹って体調悪くなった人が大勢出たら、社会活動を止めないも何も、いつもどおりには業務は回せない。

なんでみんな「(自分が)罹らないこと前提」で語るの?
災害訓練とかシミュレーションもそうでしょう。
なんで自分と自分の周囲が無事なこと前提なのか。

そもそも、現場では普段からマスクなど必要なPPE(個人防護具)を付けて業務にあたっているので、正式に濃厚接触者認定された人は子供や配偶者が陽性になった人と、プライベートで感染対策なしの外食を共にした相手の陽性が判明した人の、ごく少数。
濃厚接触者自宅待機による人員減少は、弊支店ではほとんど影響なかったです。


年末年始にかけて

「感染してもほとんどが無症状か鼻水程度の軽症、普通の風邪と同じなので、恐れず社会活動を続けましょう!」

などと煽ったマスコミ、息してますかね?
(当該療養棟の)職員半分が罹患したら、いつもどおりの活動は無理です。
応援を出してもらえばとは言っても、出す方も本来の業務があるし全体が出力を下げざるを得ない。

罹患した職員のうち、2割が10日で回復せず15日後ようやく出勤できる状態でした。
どこが鼻風邪程度なのか。
もう、ホントにマスコミは適当なことを言って広めるのはやめて欲しい。


【3】「毎日全員検査」はあまり意味がないかも

「毎日でも検査して、陽性者を片っ端から隔離していけば感染拡大は抑えられる」

という説を唱える方が時々いらっしゃいますが

「昨日陰性だった人が今日突然発症して、再度検査したら陽性」

という事例を複数経験しまして、検査陰性で安心して無防備無配慮無神経な行動を取っていると、新型コロナは発症前から他へ感染させる能力があるので、次の検査で陽性がわかってもその時には既に他へ感染させているため、そこで隔離しても後の祭りだろうなあと。

検査の試薬やスピッツ、綿棒等資材にも限りがあって、病院の方から「今週受け付けられるのはあと○件」などと制限を付けられることもありました。

だいたい、前にもたぶんTwitterで言いましたけどあの綿棒、病院仕様の検査で鼻に突っ込まれたら、目の下から火花出そうなぐらい痛いよ…(経験談

ネット上では「検査スンナ派とシーヤ派」などと茶化して言う人もいましたが、適時検査はした方がいいけど検査したことで安心して行動が雑になるのなら本末転倒、資材に限りがあるのなら優先順位を付けて高いところからやる、かな。


【4】簡単に入院できない

何か「軽症者も入院させるからベッドが足りないのでは」みたいなコメントをする人を見かけましたが、いつの話をしてるんだという感想。

ざっくり言うとこのあたりでは、1月上旬頃ならいざ知らず、最低でも肺炎起こしてるレベルでないと入院はできないです。

要入院の症例は弊社の関連病院で何人か取ってもらい(うちからの患者だけではないので、それが精一杯)、それでもあぶれた人は府の入院フォローアップセンターにお願いすることになるわけですが、電話はつながらないわ、パ○ナの派遣さんが対応してるのかは知らんけど「保健所に電話しろ」などと頓珍漢なことを言い出すわ、最後は「自宅療養で酸素濃度低下している方にも入院のご案内ができていないので、施設で点滴や酸素投与ができるのであればもう少しそちらで頑張って欲しい」。

発熱や咳、咽頭痛だけ(とは言っても食事が摂れなくなったり、虚弱高齢者には結構深刻)の人は当然のように入院の対象外。

第5波以前の方が、自治体にもよるだろうけど有症陽性の施設入所高齢者は入院できてたのではないか。

運良く入院できたけど、行った先で亡くなられたという事例も経験しましたので、何度も言うけどこれのどこが鼻風邪やねん煽った奴は腹を切らんかいコラ。


【5】薬がない

これもマスコミが散々煽ってくれましたが

「期待の治療薬、モルヌピラビル」

罹患した入所者のご家族に病状説明の連絡をするとほぼ全例聞かれるのが

「あの(テレビでやってる)薬は出してもらえるんでしょうね?」

あれを処方できるのは医療機関だけなので、うちであれを使おうと思ったら病院受診して出してもらうことになるわけですが、そもそも病院にも潤沢に在庫があるわけではないのです。

行政からの割り当てで、1日の発注量に制限があり、それも発注して翌日すぐに届くとは限らない。

当初、施設長(医師)が「職員も含めて、罹患者全員に処方する」と言い出し、いや先生厚労省の通知は読まはりました?だいたい、処方しようとしてもモノがそれだけの数ありませんのよ?全例患者説明して同意書取るんですよ?と全力で止めて、リスクの高い人をセレクトして使ってはみたけれど。

インフルエンザにおけるオセルタミビルほどの切れ味の良さは感じない…
むしろ一部は中等症化して入院…

また新しい治療薬が特例承認されましたけど、あれもインフルエンザでのオセルタミビルほどカジュアルに使えないのに、マスコミが散々「期待の治療薬!」と煽り続けるので、マスコミは適当なことを言って広めるのはやめ(ry


【6】感染状況と普段の仕事ぶりの相関関係

普段から「薬剤師風情の言うことなんか面倒だから聞かない」「お昼休みは楽しくワイワイ言いながら集まってごはん食べたい」という方の療養棟が職員込みで盛大にクラスター発生したので、そういうことです。

黙って飯食えって注意したらちゃんと聞けよ。
まあ、伝達事項を書面にしても読んでない、読めない人もいるみたいだしなあ。


とりあえず備忘録がわりの投稿でした。
続きはまた、いつか。