隠密薬剤師書置

日陰に咲く隠密薬剤師の留守居録

【新型コロナ】クラスター制圧顛末記

第1~5波まではどうにか逃げ切ったものの、感染力の強い「ο(オミクロン)株」には勝てず、勤務先で感染者クラスターが発生しました。
個人的な感想&備忘録として、簡単にまとめます。特定を避けるため、数字には幅を持たせたり、名称は仮名を使ったりします。


【施設種類】介護老人保健施設(病院併設型)
通所リハビリ併設
【入所定員】100名以上200名以下規模(特定避けのため概数)
A棟(下階)B棟(上階)の2フロア
【医療圏】大阪府南部(大和川以南)


【1日目】

午後の検温で、A棟入所者の約1/5に発熱がみられる。
以前から急な発熱者にやっているとおりに、併設病院に連絡し発熱者全員の新型コロナ抗原定量PCR検査をオーダー。
約半数が新型コロナ陽性と判明。

(ここで、日曜で管理職が不在であったこともあり、発熱者多数の報告は看護師長に電話で伝えられ検査依頼等の指示はあったものの、当日の日勤リーダー看護師と介護主任の判断で、ICTや看護師長に相談ないままに複数陽性者が出た部屋を感染部屋として有熱者を集め、元々そこにいた無症状者を空いた部屋へ移動させてしまうという痛恨の初動ミス。夕方に看護師長が駆けつけた時には部屋移動は完了してしまっていた)


【2日目】

昨日陽性が確認された以外のA棟入所者全員の抗原定量検査。被検者の約1/7が陽性。
本来であれば、高齢で重症化リスクの高い高齢の陽性患者は医療機関での治療を受けることが望ましいが、併設病院含めて診療圏内にはそんな余剰ベッドはない。
第6波初期の頃は軽症者でも入院できる程度に多少のゆとりがみられることもあったようだが、一部マスコミやSNSなどで言われていた「軽症者も全員入院などという運用をしているから病床が足りなくなるのではないか」というのは完全に周回遅れで、既に一般の軽症者は自宅療養がデフォルトとなっている。
ということで、医療従事者基準での「軽症者」は転院治療させることを諦め、自施設内で療養継続という覚悟を決める。
職員の一部に「夜勤明けの夜から熱っぽい」等申し出る者もいて、A棟スタッフとA棟に出入りするリハビリ職員等を全員検査。その後発症した者も含めて、A棟に関わるスタッフの約半分が陽性。


【3日目】

看護師全員勤務実績と予定を確認したところ、B棟所属の看護師1人が、陽性者発生確認の前日に日勤でA棟の業務応援に入っていたことが確認される。
発生当日の公休日を挟んで発生2日目の昨日は本来所属のB棟で勤務し、本日になって発熱等の症状がみられ検査したところ抗原定量にて陽性確認。
B棟勤務に戻った翌日に当たり、今ここでB棟入所者全員を検査しても正しい結果は出ないであろうという判断で、本日のB棟全員検査は後日に見送り。
B棟のスタッフで陽性となったのはこの看護師のみ。
ここからA棟入所者で日々確認される陽性者の数は1日1~4名となり、2日連続0名の時もあった。

通所リハビリは当分の間サービス提供を中止(一時閉鎖)することも考えたが、入浴等最低限必要な生活行動を通所サービスに依存している利用者もいるため、代替サービスが受けられない人に限定して1日数人以内の利用を受け付けることに。


【7日目】

B棟で初の陽性者確認。
A棟は初動を誤ったために感染者が棟内あちこちに散らばり、ICTにより棟内全体レッドゾーン認定されたので、B棟は同じ轍を踏まないために陽性者の出た多床室は部屋ごとレッドゾーンとし、同室の方は陰性でも濃厚接触者としてカーテン隔離で部屋から出さない、多床室2部屋以上で陽性者が出て一方の陽性者ともう一方の濃厚接触者を入れ替え一室を完全な感染部屋、濃厚接触者部屋にできる場合のみ入所者の部屋替えを許可することとする。


【9日目】

ここまでで陽性入所者の1割強が中等症。
併設病院にもコロナ対応病床はあるが府のフォローアップセンターからの依頼患者も受けており、府に届け出たコロナ対応病床数をとっくにオーバーしていて、肺炎症状のある中等症の人は受けてもらえたものの、当施設からの患者をこれ以上受けることは不可能。
フォローアップセンターや保健所に何度も電話をかけ、ようやく繋がったところで入院調整をお願いするも「施設内で酸素投与や点滴ができるのであれば、もうしばらく様子をみていただけませんか。在宅療養の方で酸素投与が必要にも関わらず、入院のご案内ができていない方が大勢いらっしゃって…」
デスヨネー


【11日目】

フォローアップセンターの調整で、入院待機中の方々のうち一番重症度の高い方が2つ隣の市にある病院で受けていただけることになった。
しかし、ご家族の医療要求レベルが特に高い方が残っていて、何かあったら訴訟問題になりそうな予感。


【13日目】

職員の中に夫婦で当施設に勤務している者がいて、夫氏がA棟勤務、妻氏がB棟勤務。夫氏が発症、陽性者認定され、妻氏は濃厚接触者であるものの夫氏発症当日から別の家(親族宅)で寝起きしていて、妻氏は通常の濃厚接触者待機期間のみで職場復帰できるはずであった。
が、復帰予定日からの数日間、クラスターが発生する前から休み希望を出しており、帰省(他県親族宅)のためにその休みを行使すると言う。
電話連絡して翻意を促すも「もう(帰省先に)来てしまいましたので。戻ったら復帰前検査受けに行きます」。
本日、復帰前検査に妻氏がやって来たが、抗原(定量)陽性。
夫氏とは夫氏発症当日(検査で陽性確定後に発症)、発症前に別行動となり以後一度も会っていない(と本人は主張)とのことなので、これは夫氏とは関係なく、帰省が感染につながった可能性が高い。帰省先では親族集まっての行事もあったようなので、当然飲食も多人数で共にしていて、そちらの方はクラスター発生大丈夫だったのかしらと他人事ながら心配している。
このややこしい時に平常レベルで飲食有りの多人数イベントを普通にやるというあたりが、感染確認数の多い大都市とそうでない地方との温度差なんだろうか。


ここでちょっとモヤっとするのが、たしかに休日を取るのは労働者の権利なのだけど、社会通念上、このような状況であれば自宅待機が明ける際に自分ひとりがこのまままとまった休みを取って勤務繰り上差し支えないかぐらいは確認してくれてもよいのではと思うし、特に感染につながる行動を避けるべき職種であれば多人数飲食を伴うイベントは避けるものだろうし、親戚の側だって妻氏の職業に配慮して「この時期に無理して来なくても良い」ぐらいのことは言ってくれてもいいんじゃないかなー、と。


このあたりから、フォローアップセンターに入院調整をお願いしてあった陽性者が、発症から10日を経過したので行政対応の対象から外れることになり(症状がなければ治癒と見なされる)、入院が必要な状態であれば自分達で転院治療先を探さなければならなくなった。


以前、コロナ対応病床を空けるために、入院後一定期間を過ぎた患者は元いた一般病院や施設に戻せ、患者が元いた病院や施設はゴネないで戻りを受け入れろ、という話があったけれども、戻りどころかそもそも入院できていないし、もう感染力のある時期は過ぎていて別理由での入院でも受け入れてくれる病院がどこにもない。
これで亡くなったりしたら完全に訴訟案件だよなあ。


最終的に全入所者の約3割が感染。
新型コロナ罹患を直接の死因として施設内で亡くなった方はなかったが、転院先で亡くなった方や、軽快して入院先から戻って来られたり施設内療養していた方でも明らかに罹患が原因で体力が落ちて死期を早めたなと思う事例は複数ありました。


もうね、早く経済を正常に回そうと思ったら、みんな罹らないで?
罹りそうな行動しないで?
インフルエンザと違って、症状出る前からウイルス撒き散らしてる可能性あるからね?
現場からは以上です。