隠密薬剤師書置

日陰に咲く隠密薬剤師の留守居録

ある介護老人保健施設における新型コロナ感染症クラスター対応の非公式ざっくり記録

いわゆる「まん防(まん延防止等重点措置)」が解除され、新年度が始まり、政府が「ワクワクイベント」などとまた新たな何かを誘導しそうな事業を思い付いたようですが(反対はしていません。適切に運用されることを期待します)、皆様いかがお過ごしでしょうか。


新型コロナ感染症クラスター対応をやってみた。(※現在進行形)
https://penguin-the-pharmacist.hatenablog.com/entry/2022/02/13/033015


上記のエントリーを投稿してから2ヵ月近く経ち、「まん防」解除後にも関わらず弊社弊支店近隣の医療機関や高齢者施設では新たな新型コロナ感染症クラスターが発生しておりますが、わたくしの勤務する部門ではひとまずクラスター対応が一区切りつきましたので、これまた備忘録として思い付くまま書き残しておきたいと思います。


【1】油断した頃に新たな波がやって来る


数日から1週間程度、新規発生がないと、現場は

「これはワンチャン、逃げ切れるかも」

と、感染対応解除に向けていろんなことを少しずつ平常時基準に緩めようとします。
特に、日々発表される国内の感染者数がピークを過ぎて減り始めると、マスコミも含めて「ピークアウトした」という空気感が醸成されるということもあって

「ウチらも、もう大丈夫なんとちゃうか」

と、気が大きくなります。

世間がどうであろうと、ウイルスはヒトのお気持ちなど忖度してはくれず、感染はある程度「対策した通りに」拡大したり沈静化したりしますので、果たして数日新規発生がなかったのに、これまで無事だった部屋から同時に複数人の発熱者が出て、検査してみたら皆新型コロナ陽性で、感染対応がまた振り出しに戻るー

これを3度繰り返しました。

最後の1回が最も残念感が半端なかったというのが、今回の弊支店の場合は対象が要介護の高齢者であること、感染対応期間終了時の検査をしないことから感染対応期間を発症翌日から2週間取っているのですが、「最終発症から2週間以上経ったので今日から平常運営に戻します」というアナウンスをして什器の配置や様々なものを元に戻した次の日に、また新たな発症者が複数出て、この時はもうスタッフ皆が膝から崩れ落ちる勢いで「あああぁぁぁ…」と落胆したのでした…

これに懲りて、最後の感染対応解除の際には、感染対応が終わってフロア(食堂兼共用談話スペース)に出ていただいて良い対象(未罹患者を含む)を最後の感染部屋から遠い順に3段階1週間ぐらいかけて元に戻しました。
結果的に最後のクラスターは解除に約3週間かけたことになります。

本当は、3週間はちょっと慎重過ぎやしないかとも思ったのですが、この最後のクラスターは、今回の集団感染発生当初、感染者が一度に複数発生してもフロアに多人数集めての食事提供を止めず感染を広げ、職員も狭い休憩室で何人も集まって1つのテーブルを囲みキャッキャはしゃぎながらお昼ごはん食べてて半分が罹患したという方の棟で、さすがにもう同じ轍は踏まないということで自主的により慎重な方策を取ってくれるようになったので、それを尊重することにいたしました。


【2】患者さんに「見捨てられた感」を与えない


今回の弊支店高齢者施設の患者さんで、必要な医療を受けられず「施設内」でそのまま亡くなられた方はないのですが、転医先で亡くなられた方は複数おられます。

また、罹患後10日や2週間経って「他に感染させるおそれなし」で戻って来られた方で、コロナ肺炎等の症状は軽減したものの、罹患前より大幅に身体機能が低下し食事も取れなくなって衰弱し、最終的に死亡の転帰をたどった方も複数いらっしゃいます。

「寿命じゃないのか」と仰る向きもあるかとは思うのですが、例年の死亡退所数と比べると明らかにこの期間中は数が多いので、「新型コロナに罹らなければもう少し長くお元気でいられた」可能性は低いとは言えないと考えています。

世間(特にネット上)では「後期高齢者はもう寿命だと思って(積極治療はしなくても良いのではないか、諦めろ)」などという意見を出される方もあったように思います。

それは「自分の知らない、どっかの年寄り」だから言えるのか、それを言う人ご自身がお身内の高齢者と関係が良くなくて特に高齢者に思い入れがないから言えるのかも知れませんが、当のご家族にとってはそれまでの関係や積み重ねてきた家族としての歴史がある「うちのおじいちゃん・おばあちゃん」だったりするわけです。

クラスター発生当初、ご家族の方々からは

「早く病院へ入院させて治療してください」
「このまま見殺しにする気ですか」
「そちらで感染させられたんですからね、責任は取ってもらいます」

等々、厳しい言葉が複数浴びせられました。

発熱・咳・咽頭痛程度の軽症例は施設内療養、中等症以上は弊支店の病院の方や府の入院フォローアップセンターの紹介で引き受けてもらうことができたのですが、入院先で亡くなられた方について、入院前は施設の方にクレームというか厳しいことを言っていたご家族さんでも

「ちゃんと病院で最期まで看ていただいてありがとうございます」

後日、施設の方にも

「病床不足の中、病院へ入れていただいてありがとうございました」

とお礼の言葉があったようです。

弊支店病院の感染対策担当医の先生が仰るには

「最後の1~2日だけでも病院で看たら『最後まで手を尽くしてもらえた』と納得されるんやろな」

ということらしいです。

これは「適切な設備と有資格者が適切に配置されている環境で療養できたか」という話で、「特養等に往診医を派遣」といったピンポイント対応では一般の方には「やっつけ仕事」程度にしか受け取ってもらえない、ということでもあって。

日本は、普段から比較的少ない経済的負担で医療にアクセスできるので、このあたりの敷居がとても低いというか、医療資源は「いつでもどこでも誰でも」得られるのが当然で、それが満たされないと「見捨てられた」気がするということなのかなあと思います。


【3】「最悪の場合死に至る」率がインフルエンザの比ではない(※当社比)


わたくし、この仕事やってて介護保険制度が始まってからでもそこそこの年数経ってるんですけど、弊支店の施設の方に入られた方でインフルエンザが原因の肺炎で亡くなった方って見たことないんですね。他ではあるんだと思いますし全国的な統計では出てきますけれども。
自分的にはインフルエンザは割と可逆的に治る印象で、何年か前に弊支店で施設内流行起こして保健所案件になった時でさえも死亡例はなかったのです。

それが、今回これですので。
ただの風邪どころかインフルエンザよりタチが悪い。
可逆的に回復しない事例を、50代以下の若年(といっていいかどうかはさておき)層でも見ています。

「罹っても治せばいい」

と簡単に考えないで欲しいです。

例えばの話、水痘(みずぼうそう)でも、昔に罹ったことがあると高齢になってから帯状疱疹を発症したりします。わたくしはなったことないんですけど聞いた話では結構痛いらしい。

感染症でも何でも、罹らないのが一番なのではと思います。


【4】現場以外の後方支援


感染対応期間中、直接患者ケアに関わる看護・介護のスタッフは、他の職員と動線を分けるため病院の ICTより病院と共用の職員更衣室・社員食堂の利用を禁止されていたので、各棟療養室をそれぞれ2部屋潰して更衣室を作り、家から昼食を準備して来られない人には社食で弁当を作ってもらう(有料)手配をすることになりました。

(施設を設計する時に、無駄なスペースを作らず床面積を有効利用したいのはわかるのですが、何にでも転用できる個室ぐらいの広さの部屋を複数用意しておいた方が良いのではと思いました。届出床数満床で運用してしまうと、今回のように感染症が発生した場合に隔離したり前室として使える場所がありません)

更衣場所を変更したことで、クリーニング業者の納品も新たな動線を考えて依頼することになりました。

物品は、潤沢というわけにはいきませんでしたが、事務次長の買い出しと、資材担当のお姉さんが頑張ってかき集めたのと、罹患者を施設内で看るということで府の方からN95マスク等配給があったので(但し自分達で車を出して直接取りに行く必要がある)、そこそこ何とかなりました。

清掃業者も、感染対応は契約外業務となるので解除になるまでは入れませんでした。
その期間中は看護/介護職員が自分達で清掃するわけですが、これが思いの外(すまぬ)綺麗で、何なら業者さんがやるより綺麗だったのではないだろうか。
感染対応解除になった日に当該棟に入ったのですが、荒れた感じは全然なくて、ベッドや什器等の配置さえ元に戻せば全く以前の環境と同じという状態でした。
頑張ったな!


【5】情報管理


現場はとにかく余裕がないので、情報がとっ散らかります。
施設内全体の罹患状況、どこの部屋に何人罹患者がいるか、発症/陽性確認からの日数、重症度、部屋移動の履歴、同室者等濃厚接触者の管理等々、一目見てわかるような状態にしておくのが望ましいという話を以前外部の研修で言われていたので、ホワイトボードを使って一元管理できるようにし、保健所や弊社本社等外部からの問い合わせ等にすぐ答えられるように対策本部(!)の事務所に設置しました。

本当は、これと同じものをそれぞれの療養棟に、スタッフが出勤したらまず見る場所に置きたかったのですが、一方の療養棟は丸ごとレッドゾーンでわたくしは原則出入りを禁じられ日々の更新を自分の手で行うことができないので、部分レッドで全体イエローな方の棟にある事務所に置くことになったものです。

他にも、職員も含めて罹患者のデータベースを作り(元々は保健所から報告の指示があったのでその元資料として作り始めた)、発症/陽性確認日、ワクチン接種回数、簡単な経過など記録していったものが、総務人事による罹患職員の復帰日や検査日の管理、休業手当の手続き等にも役立ったようです。

看護部長/総看護師長が罹患者の情報管理をされる施設も多いかとは思いますが、看護管理者は現場対応もあって多忙なので、それを客観的に見られる形にするのは秘書さんか誰か別に担当者を置いた方が作業が捗ると思います。
弊社弊支店は、感染対策委員会の「お世話係」であったわたくしがその役目を担うことにしました。

余談ですが、どこの病院や施設もいろんな委員会を設置して活動するように監督官庁から言われていると思うのですが、往々にして「人手が取られる」のを嫌い、まとめ役や主要メンバーをコメディカルや事務職員にやらせていることがあると思います。

その例に漏れず、弊支店も感染対策委員会の委員長(お世話係)をわたくしが任命されていたのですが、わたくしコメディカルですので看護/介護の命令系統の中に入れず、何か決まりごとを伝達するにしても指示命令ではなく「お願い」ベースでしかできないため、現場の方々が「あいつ何言うとんねん」としか認識してくださらないことが多々あり、結果的に今回斯様なことになってしまいました。

なので、本年度からは現場にベッドコントロールを含む指示命令のできる人(看護職)を委員長として置き、わたくしは事務局担当として後方支援にあたるという案を受け入れてもらいました。

いくら机上で、理屈でシミュレーションしても、実際に組織を動かせないと意味がないのですよ。
次があって欲しくはないのですが、次に同様の事態が発生したら、多分今回よりは上手く立ち回れるはずです。(←希望)

あと、第1波第2波の頃と違い、クラスター発生した施設がマスコミに張り込まれたり記者会見で吊し上げられるということはほぼなくなりましたが、もしも何かマスコミ案件になった場合に、対応する方(多分だいたいは事務長的ポジションの方)を決めておかれた方が良いのではという話。
他の職員さんは個人的に取材を受けたりしないように。
法人本部など代表してくれる部門があればなお良しです。


【6】最後に


具体的な感染対応(ゾーニングやケアの内容その他)については、既に公的機関や名前の通った先生方が出しておられるものがあると思いますので、弊支店で実施したことについては改めてここでは書きません。やらかしてることも結構あるでしょうし、手本にはならないと思いますので…

もし「こんな時はどうしたか」という弊支店一施設の実例をお知りになりたい方がいらっしゃいましたら、こちらのコメント欄にでもTwitterの方にでもその旨お知らせいただければと思います。

但し、個人情報保護・リアバレ防止の観点から、お答えできない場合もあることを予めご了承ください。


みんな、本当にお疲れ様だったね…
当分、以前のようにお疲れ様会やったりする日はこないと思うけど、今後も心折らずに頑張ってまいりましょう…